どうして「直営工事」という事業スタイルを選んだのか

直営工事とは

その定義を確認しようとウィキペディアで検索してみると、「直営工事」という項目は見当たりません。そこで「建築大辞典」を開いて調べてみると、「直営工事」とは「直営で行う工事」とあります。

さらに詳しく知るために「直営」を調べてみると、「建築主が工事を元請け業者に依頼せず、自ら労務・材料・施工機械類の調達と施工管理を行うことをいう。また、直接的な施工作業を工事種別ごとに専門工事業者等に分担させ、総合的な施工管理を建築主側が自ら行う場合も実質的な直営とみなすこともできる」と書いてありました。

前者の直営工事は、建築主が全てを行うセルフビルドのような手法。

ゆうぼく人が行う直営工事は、後者に近い手法となります。工事を各専門業者に直接依頼して、施工の管理やマネージメントを当方が監理とともに担っています。

もう少し具体的にいうと、足場は足場屋さんに、基礎は基礎屋さんに、木工事は大工さんに……と、必要な工事を専門の施工業者に直接工事を依頼し、工程の調整や材料の手配などを工事監理とともに当方で行っています。

 

直営工事をはじめたきっかけ

設計事務所を開設して15年(2019年5月時点)が経過しましたが、最初から積極的に直営工事に取り組んで来たわけではありません。

ある住宅の仕事の依頼があり、「大工は友人の父親にしてほしい」とのことだったので、設計図面を持って見積の依頼をしたところ、「このような見積はしたことがない」と言われ、仕方なく当方で見積をしたのが、直営工事を始めたきっかけでした。

駆け出しのころは仕事が少なかったこともあり、週に3〜4回は現場に行っていたので、材料の手配や工程の管理が苦にならなかったことや信頼できる専門施工業者さんに巡り合えたことで、自然とこのスタイルが現在まで続いています。

今年で50歳になり、事務所も満15年を経過したこともあって、今後のことも視野に入れながら、直営工事のシステムを再構築してみようと考えております。

 

直営工事のメリット

建築の見積には、「設計見積」と「実行見積」とがあり、設計監理で建設会社の見積をもらっても、本当の金額がわからなかったが、直営工事の場合、全て実行の金額で話ができるのでコストのコントロールが適正にできるのが直営工事の最大のメリットであると言えるでしょう。

これは工事費が安くなるという意味ではなく、適正な価格で工事ができるということ。

建設会社の見積だと総額でしか検討できないのですが、直営工事であれば細かく金額を検討することができます。

また設計段階では金額が確定できない工事、例えば木工事だと「構造材は確定できるが下地の木材などはやってみないとわからない」といったケースがあるため、電卓をはじいてある程度安全側に想定して見積金額を出すもの。しかし直営工事であれば最終的には精算払い(使った分だけ請求される)となります。

それによって、工事中でもうまく材料を使い廻せれば工事費を削減できることがありますし、木材を薪として必要な人に廃材を持って行ってもらったり、段ボールなどを資源ごみとして回収してくれる業者に持ち込んだりすることで、ごみの処理代のコスト削減に繋げることもできるようになります。

また、各工事業者さんも交えて現場で打合せをするので、それぞれの工事業者さんと顔の見える関係から信頼関係を築けるといったメリットもあります。窓口は当方が担当しますが、ちょっとしたメンテナンスや追加工事などは直接やり取りできるようになることもあります。

 

直営工事のデメリット

直営工事にはもちろんデメリットもあります。

例えば、上記の話の裏返しとなりますが工事金額は最後まで確定しません。見積上は諸経費として10%程度計上し、台風養生などの突発的な対応や想定外の材料などに廻せるように予備費的な意味合いで、最終的には精算払いなので必要経費しか頂かないのですが、終わるまで確定できないということです。

また、工期も長くなる傾向にあります。材料の発注など数量を少な目に注文して、ある程度計算できるようになってから残りを注文したりするため、材料待ちで現場が空いてしまうことがあります。前の工事が確実に終わってから次の工程に入るので、各工事間のつなぎ目で空きが生じることもあります。

仕上げなど現場打合せで最終確認して発注をするので、最終決定が遅れることなどもあり、工期は長めに取るようにしています。

 

直営工事で建てるには

家を建てるにはいくつもの方法があります。

大手ハウスメーカー、地域ビルダー、設計事務所、セルフビルド……。

何が良いかは人ぞれぞれであり、この選択が家づくりの成功のカギ。直営工事もまた万人に向くものでありません。

どのような人に向いているかは簡単には説明できないものですが、ただ安くつくりたい方や家づくりに時間をかけたくない方、神経質な方には向いていないと思います。

 

直営工事に本格的に取り組むにあたって、「三代もつ木の家を直営でつくる」(平山友子・岡部知子・高橋昌巳著:エクスナレッジ)という著書を参考にさせていただきました。ぜひ直営工事に興味のある方は、この本をご覧になられることをお勧めします。

話を聞きに来ていただき、直営工事について十分理解されてからスタートしていただきたいと思っています。

 

住宅・店舗等の建築設計事務所「ゆうぼく人」。“まちの良心的なケンチクヤさん”として皆様にご愛顧いただいております。地域で生き、地域で暮らすための、地域のしごとづくりとなる“コミュニティレストラン”をめざしています。

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